まちかどエッセー1

歌声喫茶と企業戦士


「あ〜きの夕日に。て〜る〜山も〜み〜じ」。今日も店内には歌声が響いています。


 スタッフ四人の小さな歌声喫茶を営んで、この10月で37年になりました。私の仕事は歌声喫茶のステージリーダーとアコーディオン伴奏。仙台の街で歌い続けています。


 「へ〜っ、仙台に歌声喫茶ってまだあるんですか」と驚かれる方も多いと思います。東京にも「ともしび」をはじめ数件しか残っていない歌声喫茶。われながらそんな絶滅危惧種の業種をよく営んできたなと思います。ファンの皆さんのおかげです。


 歌声喫茶ってどんな所かと簡単に言いますと、古い歌を大真面目に歌っている所です。「里の秋」とか「カチューシャ」、「ゴンドラの歌」、「蔵王の歌」など、完全に時代外れの歌を歌っています。それもお客さま全員で。


 はじめて来店されたお客さまは、まずこの雰囲気に圧倒されてしまいます。「あったかいけれどダサイ」。そんな感情が表情にも表れています。


 でもそんなダサイ歌が、心を揺さぶる時もあります。こんなこともありました。


 酔っ払ったサラリーマンの一団がご来店「元気にやれ〜!」「もっと明るい歌、歌え〜」などと気勢を上げていました。


 あの「兎(うさぎ)追いし」の「故郷(ふるさと)」を歌った時です。その中のお一人が「ううっ、田舎の友達、思い出しちまって‥」と、ホロホロと泣き出しました。


 普段、企業戦士の一員として頑張っている一人一人にも故郷があり、自分を育んだ人がいる。日々の戦いの中で久しく忘れていた懐かしい友を思い出したのではないでしょうか。


 そんなひとときに立ち会えた時、アコーディオンを弾きながら、幸せな仕事だなとしみじみ思うのです。


河北新報 2015.11.2