まちかどエッセー2

歌声喫茶とアコーディオン


「やっぱり歌声喫茶にはアコーディオン伴奏が似合いますね」。よくそう言われます。


 あったかいけれど、どこかもの悲しいサウンド。ランドセルを前につるしたような演奏姿勢。右手は鍵盤で左手はボタン。従って脳の中で左右違う司令を出し、おまけに両腕で空気を送らねばならず、手ごわい楽器です。でも長年付き合ってきて、今では二番目に好きになりました。もちろん一番自は妻ですが‥。


 アコーディオンにはロシア民謡がよく似合います。当店オリジナルの歌本にはロシア民謡がたっぶり載っています。「カチューシャ」、「黒い瞳」、「モスクワ郊外の夕べ」、「百万本のバラ」など名だたるロシアの名曲はほとんどがマイナー調。ロシア民謡はマイナー調の宝庫なのです。


 さらに「あざみの歌」、「北上夜曲」、「黒の秋」。これら日本の歌もアコーディオンとは相性が良い。労働歌や山の歌もアコ伴がよく似合うジャンルです。お客さまの歌声とアコーディオンの音色が溶け合い、歌声喫茶ならではの温かい音楽が店内に響き渡る。この瞬間がお客さまにとっても私にとっても至福のひとときです。


 人は歌いながら、心にどんな風景を描くのでしょう。子どものころに駆け回った故郷の山、絵を褒めてくれた先生、安保反対を叫んだ友、もう会えないお母さん。歌声喫茶は青春を懸命に生きた日々をいとおしみ、懐かしい人に再会し、その思い出をてこにして明日への活力を呼び起こす場所なのだと思っています。 


 アコーディオンを弾き始めて40年。下手なりに目標があります。それはアコーディオンを弾きながらおしゃべりをすることです。ある有名なピアニストが華麗にピアノを奏でながら楽しげに会話をしていました。 そんなふうになりたい。挑戦しています。


 「三連符いいね!」「その音、クールだね」と、今日も心の中でアコーディオンと語らいながらこの難しい楽器に食らいつき、抱き合い、一生の友として付き合っていくつもりです。

河北新報 2015.11.16