まちかどエッセー8

歌声喫茶の若者たちは今


 「君のゆく〜道は〜、果てし〜なく、遠い」。映画「若者たち」の主題歌。1960年代に大ヒットした この歌は今でも歌声喫茶の定番です。田舎から出てきて働き、組合活動やサークル活動をして、名画座でむさぼるように映画を見る。 疲れた体で歌声喫茶の階段を上る。仲間、親友、平和。そんな言葉がまだ生きていた時代。


 歌声喫茶の三大勢力と言われたのは保母さん、看護婦さん、学校の先生。38年前の開店当時はそんな若い女性たちでいっぱいでした。「たんぽぽ」「青い空は」「青春」など電波には 乗らない歌声喫茶ならでは のヒット曲が、狭い店内に響き渡りました。あれから 30年、あの青年たちはどうしているんでしょう。


 ある日、お客さまから「あの時、あんなにたくさん来ていた若者はどこへ行ってしまったんでしょうねえ」と聞かれました。「う〜ん、どこへ行ったんでしょうね」と話していると、お隣の初老のお客さまが「ここにいるよ」と自分を指さし会話になりました。聞いてなるほどと思いました。


 あの時の若者たちは、介護をし、孫の世話をし、町内会の仕事を引き受け、奮闘している。自分や家族のため退職後も働き、懸命に生きている。決して暇ではない。う〜む。


 ステージが始まると、そのお客さまはロシア民謡「ともしび」を歌ってくださいました。人生のさまざまな喜び、悲しみを経た味わいのある歌声でした。


 うたこえ喫茶バラライカは皆さんと一緒に歌うところです。大声で歌い、語り合える場が人間にはどうしても必要です。根源的な人間の欲求ではないでしょうか。 音楽と人との出会いでひょんなことから始めたこの 仕事でした。思い悩みながら来ました。しかし、もっといい歌を、もっといい伴奏をと歩んできました。


「元気が出た」「みんなで歌うと感動もした」そういう言葉を頂けることが私の宝物です。 今日は最後のエッセーです。お付き合いいただき、 ありがとうございました。


河北新報 2016.2.29