うたごえ喫茶と私


【寄稿】 南部大地

 「両親の職業はなんですか?」と訳かれることは誰しもよくあることだと思います。私はこれを他人に説明することが苦手でした。他の職業に比べて引け目があるわけではないのですが、単純に説明するのが難しかったのです。ある世代以上の方は 「うたごえ喫茶です」というとすんなり通じるのですが、私の同級生に「うたごえ喫茶だよ」 と言っても当然知りません。 「生演奏のカラオケだよ」と言うこともありますが、 その説明だとちょっと違うようにも思います。

 

 この紙面の読者の皆さんは御存じでしょうが、うたごえ喫茶は 『みんなで一緒に歌う』というと頃がポイントです。カラオケもライブハウスもお客さんとー緒に歌うことはあり ますが、 基本的には聴きに行くものです。うたごえ喫茶に来たら聴くだけじゃだめというわけではあり ませんが、基本は『みんなで一緒に歌う』ことです。 このところが世代によってはあまり馴染 みがなくピンとこないので、なかなか伝わりづらいのです。考えてみるとこれは不思議な業種かもしれません。

「みんなで一緒に歌うことをサポートする職業」。うたごえ喫茶をそう言うこともでききる かもしれません。

 

 私は現在25歳でお店が38年。私が生きて来た時間がすっぽりとお店の年数に入ってしまいます。も心ついた時からお店には連れて行かれ、家では何時でも誰かが演奏していました。しかし、私自身はその頃全く音楽には興味はなく、手品やジャグリングなどをやっていました。「音楽はみんなやっていると、自分がやっても目立たないな」などと考えていました。ところが兄たちが楽器を弾いているのを見たり、お店を手伝うようになって、だんだん興味が起こり、 今はお店でベースやギター、店名の由来になったバラライカなどで父と伴奏し店舗の代表もしています。分らないものですね。


 そうしているうちに伴奏の魅力というものに取り付かれたように思います。お客さんのうたにビタッと合わせたときや、自分の出した音が影響を与えて演奏が良くなっていくときなど、何とも言えない快感があります。そしてお客さんの歌の魅力がぐっと引き出せたときは誇らしくなります。伴奏をするようになってから私は、いろいろな音楽を意識的に聴くようになりました。ジャズもクラシックもファンクもHip Hopもカントリーもロックもフォークソングも、もちろんロシア民謡も。


 うたごえ喫茶で伴奏をするとき、自分で参考にしているCDがあります。“Charlie Haden Family & Friends-Rambling Boy" というCDです。チャーリー・ヘイデンが、昔から慣れ親しんだカントリー曲を家族と友人のミュージシャンでレコーディングしたものです。

 歌も演奏も暖かみがあり、とても素晴らしい作品です。伴奏の参考にしているといいましたが、このCDに特に変わった演奏が入っているとか、分りやすくポップな編曲だという訳ではないのです。ですが、ぴったりした言葉が見付かりませんが、現代的な演奏をしていると感じました。私はこの感覚が大事だと思っています。私はこのCDを聴いて、演奏なり伴奏なりする時に「今できる最良」をしながら「何か新しいもの」をすることを教えられた気がしました。

 うたごえ喫茶は、ご存じの通り古い歌が多いです。古い曲を演奏するときもいつも初めてやるように演奏できたらなんて良いのかと思います。

 家族でレコーディングしているところも私にとっては重要な要素かもしれません。このCDではチャーリー・ヘイデンとその奥さん。それから娘と息子さんが参加しています。私の家も音楽一家というところで共通しています。なので、無意識に参考にしているのかもしれません。

 もう一つ影響を受けたのは、このベーシストが様々なジャジルのミュージシャンと共演しているところです。私はもともとジャズ・ミュージシャンとしてのチャーリー・ヘイデンを知っていましたが、その人がこんな田舎っぽい音楽をやっているとこに驚きました。ジャズ、ブラジル音楽、カントリーを行き来して共演者と何か作り出すその姿勢も素晴らしく、憧れます。


 伴奏は歌い手とのコミュニケーションだと思いますし、信頼関係だと思います。ジャスビアニストの山下洋輔は「相手を全肯定するのがジャズ」といっていましたが、これは協力して演奏する音楽全般に言えることかもしれません。 うたごえ喫茶荷はこの姿勢が大切だと、私は思っています。いろいろな人が、いろいろ声で、好きに歌う。その状態が素晴らしいんだという考えが、うたごえ喫茶の素晴らしいところだと私は思っています。


(うたごえの店バラライカ 店舗代表 南部大地)